本作品は、昭和32年頃の講談社『なかよし』に連載されたもの(雑誌掲載時タイトルは『星はみている』)を、後年になり兎月書房が全2巻の単行本として発行した物である。貸本屋向けに出版されたため発行年の記載がないが、装丁やページ数から類推して昭和35年後期から36年初期だと思われる。 絵は手塚の影響を色濃く受けているが、非常に達者であり、キャラクタ描写や動きの描写にも難はない。この当時の水準としてはかなりハイレベルである。 本作品の基本的ストーリーをかいつまんで説明する。
終戦から12年。父親を原爆で亡くした杉本まゆみは、広島の郊外で病気の母親と二人で暮らしていた。しかし家を火事で焼き出され、病気の母親を亡くし、ひとりぼっちになったまゆみは、東京のおばさんへ家に身を寄せることとなる。
まゆみに残されたのは母親の形見の指輪だけ。だがその指輪には大変な秘密が隠されていた。父親が残した宝物の隠し場所がしるされていたのだ。その指輪を奪おうとして黒原という男がまゆみをつけ狙う。
原爆症で入院した親友のサチ子を見舞うため再び広島に舞い戻ったまゆみは、黒原の手下に連れさらわれ、ついに指輪を奪われてしまう。親友のサチ子に死なれ、指輪も奪われ失意の底に沈むまゆみの前に、顔に包帯を巻いた怪人が現れる・・・ 前半部はミステリアスなタッチと伏線により、かなりの盛り上がりを見せる。ただ終盤部のまとめ方に少々駆け足の感がある。これが設定の盛り込みすぎか、ページ数の不足によるものかは、雑誌連載での内容との比較が必要であり、残念ながら今回はそこまでの確認が取れなかった。 作者の谷川一彦について分かっていることは少ない。出身はおそらく広島で、執筆時の住所は広島県安佐郡安古市町上安(現在の広島市安佐南区上安)である。初めて誌面に名前が出るのは『漫画少年』の投稿欄である。その当時から絵柄に関しては天才的と呼ばれていたらしい。雑誌掲載は昭和30年頃から開始され、一部の例外を除き『なかよし』、『少女』、『少女クラブ』等の講談社、光文社の少女漫画雑誌が活躍の舞台であった。 特に昭和31年から33年に掛けて『ほくろが三つある』、『星は見ている』、『海はしってる』と矢継ぎ早に作品を発表している。
少女漫画に於いては最古の原爆漫画と思われる。(2012年3月5日補足:これが最古の原爆マンガかどうかは確定はできない情報が出てきている。ただし他の原爆マンガの初出情報が確認できないため、現状では最古の可能性も残っている) 昭和35年以降は、雑誌で名前を見ることはなくなる。昭和40年1月号『鉄腕アトムクラブ』(虫プロダクション友の会発行)の『大都会・メトロポリス』(原作・手塚治虫
文・郷のりや す え・谷川一彦)にその名を見るのみである。 その天才的な絵柄ゆえ、遠藤信一と同じようにその後の消息に関し未だ憶測を呼ぶ作家の一人である。 |