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少女マンガ(家)に花束を    藤下真潮
第1回 〜岡元敦子という星〜

 

 初出:「漫画の手帖 59」 2010年7月25日発行

 

 

「セミア」
別冊少女コミック1975年2月号

 

「バレリーナ」
週刊少女コミック1975年27号

 

同上

 

 

 第1回と銘打ってはいるが、前回(TOKUMARU4号)に掲載した『神保町裏通り日記 用管窺天編』という前科(?)がある。前回と同じようなコンセプトなので本来は2回目の筈なんだけど、まさか連載になるとは思わなかったので、あんまりたいした考えも無しに前回タイトルを付けてしまった。

 前回のタイトルが商売上のHPで使っているタイトル流用なのも芸がないので、編集のF氏に掲題のタイトルに変えても良いかと問い合わせると、”ナカナカ恥ずかしいタイトルで良いじゃないですか”と快諾された。なんだか羞恥プレイにでもあったような気分で、穴でもあったら入りたいところなんだけど、わざわざ穴を掘るのも面倒なのでそのまま放置プレイ。

 本当のところをこっそりと白状すると、このタイトルの前に”売れ○○”とか”忘れら○○”という形容詞を付けようかと密かに思ってもいた。しかしながらそんなことすると、いろんな処からいろんな危ない物が飛んできそうな気がするので、やっぱりそのまま放置プレイ。

 どこまで続くかは分からないけど一応この連載のコンセプトを説明すると、1970年代から80年代頃に活躍してそれなりの作品を発表していながら、時代の流れに埋もれてしまったり、時代の流れに流されてどこか行方しれずになってしまった少女マンガ家を取り上げるという物である。基本的には現役で活躍していたり、それなりに知名度を得ているマンガ家は取り敢えず対象外ということで。まあ多少のぶれは生ずるかもしれないけど、そんな感じで続ける予定です(編集F氏未承認)。

 前置きが長くて済みませぬ。今回は岡元敦子です。1970年代中盤に週刊もしくは別冊少女コミックを読んでいたか、1970年代後半から1980年代前半に掛けてプチコミックを読んでいた世代には多少馴染みがあるかと思われるけど、どうなんでしょ。

 ペンネームの表記に関しては初期の「岡元敦子」が良いのかプチコミック以降の「岡元あつこ」が良いのかちょっと迷った。単行本では「岡元あつこ」名義なのでこちらの方が通りが良さそうなのだが、現在「岡元あつこ」をインターネットをググると、元グラビアアイドルの方ばかりが引っかかるのと、個人的には「岡元敦子」時代の作風の方が好きだったのでこちらに統一。

 ナカナカ本題に入らず申し訳ありませぬ。まず絵柄に関しては独特というか個性的。この絵の独特さ加減をなんと表現すれば良いかが実に難しいところだ。上手いかと問われれば5秒ほど”う〜〜”うなってしまうし、下手かと聞かれればやっぱり5秒ほど”う〜〜”とうならざる終えない。
まあマンガの絵というのは、たとえパースが狂っていようが、たとえ直線が曲がっていようが、西島大介ばりに背景が限りなく白かろうが本質的には無問題である。作品のテーマや主張や作者の情熱やら血と汗と涙と感動が伝わるならば、人物が針金だろうが背景が真っ白だろうが何ら問題はないはずである(ここまで弁護しておけば大丈夫かな)。大雑把なくくり方をすれば、個性的で味がある絵柄といえる(グルメ番組の”まったりとしてコクがある”という逃げ表現と同じだ)。
 申し訳ない。また脱線した。
 えー岡元敦子は小学館『別冊少女コミック』1973年12月号掲載「黒い瞳のアヒル子」でデビューした。デビューから3年くらいは『別冊少女コミック』と『週刊少女コミック』で精力的に作品を発表している。1977年に小学館から『プチコミック』が創刊されるとそれ以降は、ほぼ『プチコミック』での仕事が主体となる。てなわけで今回も腐海(倉庫)を漁って作品リストを作ってみた。


岡元敦子作品リスト
・1973年
 黒い瞳のアヒルの子 * 別冊少女コミック 12月号
 (第2回別コミ準新人賞受賞作)
・1974年
 紫色の扉 * 別冊少女コミック 1月号
 屋根裏ラットパトロール 別冊少女コミック 2月号
 ブルーデンスのステキな水曜日 週刊少女コミック16号(4月14日号)
 ポケットは恋でいっぱい 別冊少女コミック 5月号
 幸福のしずく 別冊少女コミック6月号
 りんごの木の下物語 週刊少女コミック28号(7月7日号)
 昼下がりのジョージ 別冊少女コミック8月号
 風鈴のある風景 週刊少女コミッ夏の増刊号(8月28日号)
 フリス家のお嬢さん(4回連載) 週刊少女コミック41号(10月6日号)
 〜44号(10月27日号)
 不思議なタマゴ焼き * 別冊少女コミック11月号
 ヒイラギ写真館 ※1 * 週刊少女コミッ冬の増刊号(12月24日号)
・1975年
 セミア 別冊少女コミック2月号
 みつばち白書 週刊少女コミック12号(3月16日号)
 青い羽根・青い鳥 週刊少女コミック18号(4月27日号)
 バレリーナ(7回連載) 週刊少女コミック27号(6月29日号)
 〜33号(8月10日号)
 夢の少年 別冊少女コミック11月号
・1976年
 まほうキャット 別冊少女コミック1月号
 ペパーミントラブ 別冊少女コミック3月号
 タンポポ荘の下宿人 別冊少女コミック5月増刊号 ちゃお
 虹のおりる丘 * 週刊少女コミック27号(6月27日号)
 金平糖もらっちゃお! 別冊少女コミック10月号
 お菓子館にとびこんで 週刊少女コミック41号(10月13日号)
・1977年
 フラッシュはおあずけ!? 別冊少女コミック1月号
 君よ知るや黄昏の国 プチコミック1月号(創刊号)
 初恋のいたずら プチコミック4月号
 ふきのとう物語 週刊少女コミック15号(4月3日号)
 星くずの園 プチコミック7月号
 すずらん * 小学六年生8月号
 17(セブンティーン)フリーダム* プチコミック9月号
 ロビンに伝えて 花とゆめ 夏の増刊号(9月30日号)
 絵の中の翼にのって プチコミック11月号
・1978年
 三日月夜 週刊セブンティーン1月5日増刊号
 シェリトリンド 果鈴 プチコミック早春の号
 薬子ふしぎの8時間 花とゆめ5号(3月5日号)
 夢織りオルゴール プチコミック5月号
 はいすく〜るチャイム (果) プチコミック6月号
 果鈴玉琴 (果) プチコミック8月号
 デリラ 花とゆめ 夏の増刊号(9月10日号)
 もみじが踊る (果) プチコミック11月号
 あつこの倫敦日記 プチコミック11月号
 ラブ・フォーカス (果) プチコミック12月号
・1979年
 気ままな猫のように (果) プチコミク2月号
 ちっぽけな傷心 プチコミック4月号
 パパって呼ばせて(5回連載) プチコミック5月号〜9月号
 ああせいこうせい同棲(10回連載) プチコミック12月号〜80年9月号
・1980年
 ここだけの秘密ね プチコミック11月号
・1981年
 奏でるままに プチコミック3月号
 ギャンブラーの美学とは プチコミック5月号
 さらば愛しのギャンブラー プチコミック10月号
・1982年
 ととかまキャット デュオ3月号
・1984年
 マンハッタン任侠ブルース プチフラワー7月号
 Goodbyシャックリプリンセス プチフラワー11月号
・1986年
 ミステリーは塩味で プチフラワー1月号

*:単行本『ひいらぎ写真館』収録
※1:初出時はカタカナ「ヒイラギ」
(果):果鈴シリーズ

・単行本リスト
『はつ恋』世界名作コミックス3 ユニコン出版 1976年12月発行
『ひいらぎ写真館』サンコミックス 朝日ソノラマ 1977年11月発行

 以上、読み切り・連載併せて52作品発掘できた。単行本は書き下ろし企画物を含めて2冊。網羅率は多分9割は超えているんじゃないかと思う。1980年以降はガクッと作品数が減るが、これが単に調査不足なのか、本当に寡作だったのかはよく分からない。

 この中から個人的に好きだった2作品をかなりかいつまんでご紹介。

 まずは『別冊少女コミック』1975年2月号掲載の読み切り作品「セミア」。21ページという妙に中途半端なページ数の短編である。

 主人公のアイリーンは何年もの長い間、心を病んだ母親の見舞いに病院を訪れている。しかしアイリーンの姉であるセミアを不慮の事故でなくした際に心を深く病んでしまった母親には、アイリーンの姿は死んだ姉セミアとしてしか映らない。母親に一度も自分の名を呼んで貰えずに育ったアイリーン。事故の呪縛から抜け出せない母親。この母娘にふたたび心をかよわす日々が訪れるのだろうか……?

 母娘の愛情を静かに濃密な筆致で描いた珠玉作で、絵柄やストーリーに関しても、それまでの著者の傾向からはちょっと外れた異色作である。

 もう一つは『週刊少女コミック』1975年27号から33号まで全7回で掲載された「バレリーナ」。各回15ページ(扉含む)の7回連載で全105ページなので長編と云うよりは中編くらいの作品である。
 内容的にはこんな話。パリ・オペラ座の振り付け師を目指しているユベールは、ある日人形劇の一座の中でマリオネット達に紛れあたかも人形のように踊る少女フェーブに出会う。その姿に「純粋なバレエの美は感情のかけらももたない人形たちにだけ生みだせるのかもしれない!」と考えたユベールは、フェーベに自分の理想とするバレエを託そうとする。やがてフェーベ主演によるバレエ「コッペリア」は`大成功を収め、それをきっかけにユベールはパリ・オペラ座の振り付け師として迎え入れられる。しかしフェーべを単なる理想的な踊り子としか見ないユベール。ユベールに対し一方的に恋心を募らせる、若く世間知らずのフェーべ。そのふたりの想いのすれ違いは、やがて……という感じの作品である。

 岡元敦子はデビュー作「黒い瞳のアヒルの子」や読切「青い羽根・青い鳥」等、他にもバレエを題材とした作品を描いており、バレエに関してはかなり思い入れがあったようだ。この作品もバレエ『コッペリア』自体をひねって作ったような作品で、岡元敦子のちょっとコミカルな絵柄が実に良くマッチングしている。単行本にこそ収録されなかったが、著者の代表作といっても良いかも知れない。

 ちょっと余談になるが、この「バレリーナ」が掲載された1975年の『週刊少女コミック』は絶頂期とも云える作品群を生み出している。ちょっと挙げると萩尾望都「この娘うります!」、高橋亮子「つらいぜ!ボクちゃん」、竹宮恵子「ファラオの墓」、大島弓子「いちご物語」、楳図かずお「洗礼」、横山光輝「クイーンフェニックス」、倉多江美「ぼさつ日記」等々。その珠玉の作品群の中にあっても「バレリーナ」は決して引けを取らない輝きを持った作品だったと思う(この当時としてはちょっと古典的かもしれないが)。

 1977年以降『プチコミック』誌に移ってからは、「果鈴シリーズ」を初めとする短編群や「パパと呼ばせて」、「ああせいこうせい同棲」などの連載を矢継ぎ早に執筆し、どちらかといえば一般的にはこの時代のほうが知名度はあり、手馴れた感じの作風でそれなりのポジションにはいたようである。しかし勝手な個人的な主観ではあるけれど、この時点ですでに初期の輝きのようなものは無くなっていたように感じる。

 『プチフラワー』1986年1月号掲載「ミステリーは塩味で」。これが一応確認できた岡本敦子最後の作品である。コミカルなミステリーという味付けの45ページ作品で、この作品の欄外に「新米ママしながらガンバる岡元先生にお便りを!!」とある。子育てに忙しくなっちゃってリタイアしたのかも知れない。


 人は人生の中で色んな輝き方をする。岡元敦子という星は、その初期に於いてひときわ強い輝きを持っていたのだろうと思う。

 次回は銀雪子を取り上げたいと思う(編集F氏未承諾)。

 

 

 あとがき

 タイトルを変更した経緯は本文中にあるとおりで嘘は無いです(^^ゞ。第1回目のネタが”岡元敦子”になったのは編集F氏と店主の趣味が一致したというそれだけで選びました。文章を書くのにはそれほど時間はかかっていませんが、作品リストの作成に関しては結構な時間がかかりました。腐海(倉庫)を何度もひっくり返すように探しまくった結果です。それにしてもほとんど在庫があったってことは、如何に売れない古本屋かを証明しているようなものです。困ったもんだ。

 

東京都公安委員会許可第301020205392号 書籍商 代表者:藤下真潮